17.壁ドンの風景


 2014年ユーキャン新語流行語大賞のトップ10、第3位にも選ばれた『壁ドン』。いわゆる男性の女性に対する少々強引な口説き行為ですが、本来は集合住宅の隣の騒音に対して壁を叩いて抗議するという意味だったとか。


夏輝「ねえ、修平、壁ドンして」

修平「壁ドン? おまえ好きなのか? そんなの」

夏輝「うん。萌える。やってやって!」

修平「わかったよ」

 修平は夏輝を壁際に追い詰め、顔を近づけて両手を壁にドン、と突いた。

夏輝「きゃー! いい! いいよ、修平、もう一回」

修平「わかったよ。変なヤツだな」

 修平はもう一度夏輝の目を見つめながら壁に手を突いた。

 

春菜「さっきから壁を叩く音が聞こえるけど……」

健太郎「また修平と夏輝が妙なことやってるに違いないよ」

 隣の部屋で春菜と過ごしていた健太郎は、繰り返し壁から聞こえてくる音に我慢できなくなって立ち上がった。

健太郎「いいかげんにしろっ!」

 そして壁を拳で思い切り叩いた。

高校三年時からつきあい始めた修平と夏輝、健太郎と春菜は、それぞれ25歳で結婚します。

→基礎知識『夏輝と修平』 →基礎知識『健太郎と春菜』

 健太郎の恋人春菜は、結婚後、彼の父親ケネスが経営する『Simpson's Chocolate House』で働いていた。

 

春菜「ケニーお義父様! 壁ドンして下さい」

ケネス「壁ドン? なんやそれ。カツ丼の親戚か何かか?」

 横から健太郎がため息をつきながら言った。

健太郎「違うよ父さん。女性を壁際に追い詰めて、両腕を壁について強引に迫る行為。少女漫画によくあるだろ」

ケネス「あんなことされたいんか? ルナっち」

 ケネスは呆れ顔をして春菜を見た。

春菜「はいっ! 私、お義父さまにしてもらうのが夢だったんです」

 横で健太郎も同じように呆れ顔をして言った。

健太郎「やってやってよ。父さん」

 ケネスは立ち上がり、すでに壁を背に顔を赤くして立っている春菜に近づいた。そして彼女の肩越しに両手を壁についた。

ケネス「こ、こうか?」

春菜「そうですー! もっと迫って下さい、私に」

ケネス「せ、迫って下さい、言うても……」

 ケネスはおろおろしていた。

春菜「私の名前を呼んで迫ってくださいー」

 ケネスは困った顔をして、春菜に向き直り、言った。

ケネス「春菜!」

春菜「きゃー!」

 春菜は脚をばたばたさせて興奮した。

春菜「素敵素敵素敵っ!」

 高一の健太郎は、いとこで小学校六年生の龍といっしょに風呂に入った。週末はよく龍がこうして家に遊びに来ていたのだった。

 

 龍を先に風呂から上がらせ、タオルを手に遅れてリビングにやって来た健太郎は、壁際で下着姿のまま立っている双子の妹真雪の姿を見てぎょっとした。

健太郎「マ、マユ! お、おまえ何で下着なんだよ!」

 そして彼は顔を赤くした。

真雪「龍くんに壁ドンしてもらってるんだよ」

 龍もパンツ一枚の姿にさせられ、真雪の前に立ってひどく困ったような顔をしていた。

龍「マユ姉ちゃーん……」

健太郎「いや、だからどうして壁ドンが下着じゃなきゃいけないんだよ」

真雪「臨場感って大切だよ」

健太郎「な、何の臨場感だよ!」

 健太郎は赤くなって大声を出した。

真雪「いつかあたし、龍くんにこうやって迫って欲しいんだ」

龍「せ、迫って?……」

健太郎「そもそも龍の手、壁に届いてないじゃないか」

真雪「ほら、もっと近づいて、龍くん」

龍「えー、だ、だって……」

 龍はさらに顔を赤くしてどぎまぎしている。

健太郎「それじゃ『壁ちょん』だろ」

真雪「ほら、龍くん、壁をどんってしてみてよ」

龍「そ、そんなことしたら、顔がマ、マ、マユ姉ちゃんのお、おっぱいに……」

真雪「遠慮しないで。ほら」

 

健太郎「(くっそー、うらやましいな……)」

 真雪の思惑通り、この二年後龍は彼女の恋人となり、真雪が25歳の2月、21歳になった龍とめでたく結婚して幸せな家庭を築くことになります(→基礎知識『真雪と龍』
一年後の逆壁ドン(真雪高二、龍中一)
一年後の逆壁ドン(真雪高二、龍中一)
三年後の壁ドン(龍15歳、真雪19歳)
三年後の壁ドン(龍15歳、真雪19歳)
三年後の顎クイキス(真雪19歳、龍15歳)
三年後の顎クイキス(真雪19歳、龍15歳)

 修平と夏輝は結婚後、高校時代を思い出して壁ドンを再びやってみることにした。

 

夏輝「ねえねえ、修平、久しぶりに壁ドンやってよ」

修平「おお、壁ドンな。だけど高校ん時やってケンタに怒られたじゃねえか」

夏輝「いいじゃない。お願い」

 すでに下着姿になっていた夏輝は甘えた声を出した。

修平「しょーがねーなー」

 同じように下着姿の修平は立ち上がり、夏輝を壁に追い詰めた。

夏輝「いやん! いい! 思い出すよ、高校の時のドキドキ」

修平「そうか?」

 修平はちょっと呆れ顔をして、夏輝の背後の壁に勢いよく手を突いた。

夏輝「きゃー! きゅんきゅんするっ! もう一回!」

 修平はにやにや笑いながら彼女のフロントホックブラを外して左手に持ったまま、また壁に手を突いた。

 

 隣の部屋で春菜と過ごしていた健太郎はすくっと立ち上がり、つかつかと壁に歩いて、拳を思い切り叩きつけた。

健太郎「やかましいっ!」