02.シンチョコのチラシ
「シンチョコ」とは『Simpson's Chocolate House』の略称。この店の常連客、特に女子高校生が使い始めた愛称です。この街唯一のチョコレート専門店ですから、いつも女性や子ども連れを中心に賑わっています。チョコレート専門店ですが、ここのオーナー、アルバート･シンプソンはケーキも、クッキーも作れる名ショコラティエ。スイーツを求めてやって来る客足が途絶えることはありませんが、宣伝もちゃんとしなければなりません。
二代目のケネス・シンプソンは、新聞の折り込み用にチラシを作成しました。その背景デザインに使うため、親友ケンジの息子龍に写真を頼みました。看板娘とも言える真雪が、アソート･チョコレートの箱を持って微笑んでいる写真を使ったそのチラシはたちまち評判になり、真雪の同級生の（殊に男子の）間で争奪戦が繰り広げられました。限定１００枚しか印刷されなかったその写真付きチラシは、（シンチョコや真雪の）ファンの間で大変貴重がられました。
モデルの真雪はもちろん、写真を撮った龍本人もその写真をえらく気に入っていて、その元写真は大きく引き延ばされて、彼の部屋に飾られています。それは言わば龍の写真デビュー作。しかし、愛しい恋人の姿を写したその画が、幾多の若者好事家のコレクションになっているという事実は、龍をして複雑な思いを抱かせることにもなっていたりするのです。
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