第8話 父の温もり page 1 / page 2 / page 3 / page 4


02.恋人のように

 

 何度も訪れたことのあるケンジの家、見慣れたリビングのソファ。夏輝は今、ケンジと二人きりでこの空間にいることが、まるで夢のように感じられていた。

「シャワーで汗を流すといい」ケンジはソファの脇に立ってネクタイを緩めながらそう言った。彼はいつも通りの気負いなく爽やかな態度だった。

「着替えはドレッサーの脇に用意してあるから」

 

 夏輝は魔法をかけられたように、促されるままにシャワールームへ入っていった。

 

 いつの間にそろえたのか、ドレッサーの脇の小さなテーブルに真新しい水色の飾り気のない小さなショーツと、おそろいのスポーティなブラジャーが揃えて置いてあった。見たところ彼の妻ミカが使っているランジェリーではなさそうだった。

 シャワーを済ませた夏輝はそれを身につけ、ドレッサーの鏡に映った自分の全身を眺めてみた。ワインのせいでか、全身がピンク色に上気していた。その柔らかな肌の色に、水色の下着が美しく映えて見えた。夏輝はその上からガウンを羽織り、シャワールームを出た。

「気分はどう? さっぱりした?」ケンジは声をかけた。

「は、はい。ありがとうございます。着替えまで……」

「遠慮しなくてもいいよ。君のためにさっき急いで買ったランジェリーだけど、良かった、着てもらえて」そしてケンジは笑った。

「あ、あたしのために? こ、この下着を買ってくれたんですか?」夏輝が驚いて言った。男性が一人で女性用のランジェリーを買うことなど、夏輝には想像もできなかったからだ。

「そうだよ。ほら、商店街の西の入り口あたりにあるショップ。ミカに着て欲しいものなんかもそこで僕は買ってやったりするよ」

「は、恥ずかしくないんですか?」

「最初は恥ずかしかったけど、何度もミカと二人で行くうちに、僕も顔見知りになっちゃってね」ケンジはまたにっこり笑った。「僕には娘はいないけど、いたらきっとこうして買ってあげるよ」

 夏輝は眉尻を下げてケンジの笑顔を見つめた。

「サイズはどう? きつくない?」

「ぴったりです。びっくり」夏輝はガウンの上から自分の胸を押さえた。

「ジャストサイズを選ぶ自信がなかったから、ストレッチ素材のスポーツブラにしたんだ」

「あたし、こういうデザイン、好きです」

 

「そう」ケンジはにっこり笑った。「活発な君に合ってると僕も思うよ」

 ケンジは腕時計を外して、リビングのテーブルに置いた。

「コーヒー、淹れといたから、飲みながら待ってて」

「はい……」

 

 テーブルにはピンク色の愛らしいマグカップに入れられた香しいコーヒーがゆらりと湯気を立てていた。

 

「あ、それから、」リビングを出て行きかけたケンジは、立ち止まり振り向いて言った。「もし、君がよければ、ポニーテールにしておいてくれないか? 僕は君のポニーテールが大好きなんだ」

 ケンジはまた微笑みながらそう言うと、鼻歌交じりにシャワールームへ消えた。

 

 夏輝は、リビングのソファでケンジの淹れてくれた極上のマンダリンコーヒーをすすりながら考えた。どうしてここまでついてきてしまったのだろう。今からの行為は立派な不倫だ。恋人修平やケンジの妻ミカに対する背徳行為だ。冷静に考えればそうだったが、彼女の身体は熱く火照り、もはやケンジに抱かれることを拒否する気持ちなど微塵もなかった。それは決してワインのせいなどではなかった。

 

 コーヒーを飲み干した夏輝は立ち上がり、シャワールーム脇にあるドレッサーに向かった。そして椅子に掛け、大きな鏡に向かってドライヤーを手に髪を乾かし、ケンジに言われたとおりに元通りポニーテールに結わえ直した。

 シャワーから迸る水の音が止み、ドアが開く音がした。そしてしばらくすると、背後の脱衣所のドアを開けてケンジが姿を現した。

 

 ケンジは黒い下着だけの姿だった。逞しくもしなやかな両脚が長く、すらりと床に伸びている。

 

 彼は椅子に掛けたままの夏輝の背後に立ち、鏡の中の夏輝に笑顔を向けながらそっと腕を彼女の胸元に回した。

「寝室にどうぞ」

 鏡の中でケンジはにっこりと笑った。

 

 寝室のベッドの端に腰を下ろした夏輝は、目の前に立ったその逞しくも美しいケンジの姿に目を奪われていた。いつも遠くから眺めるだけだったプールサイドの憧れの男性が、現実に自分を抱きしめてくれる。すぐにあの逞しい腕に抱かれ、あの広くて温かい胸に包まれる。夏輝は身体の中から湧き上がる激しく熱い奔流を、もはや押さえ込むことができないでいた。

 

 ケンジは優しく夏輝の身体をベッドに横たえた。そしてゆっくりと彼女の羽織っていたガウンを脱がせた。

 ケンジは夏輝の耳元で甘く囁いた。「いいかい? 夏輝ちゃん」

 夏輝はコクンとうなずいた。

「あ、それにこれ、さっきの食事代の代わりなんかじゃないよ」ケンジはいたずらっぽく笑った。

「わかってます、ケンジさん」夏輝は顔を上気させ、恥ずかしそうに微笑んだ。「あたし、またケンジさんに甘えてしまいますね」

「僕も君のお父ちゃんの代わりになんか、到底なれないけど」

 

 ケンジはそのまま夏輝の背中に腕を回し、そっと唇を重ねた。夏輝はその唇を夢中で吸い、舌を彼の口の中に差し込んだ。しかしケンジの方は決して激しく舌を絡ませたりすることはなかった。常に夏輝のペースで、唇と舌を慈しんだ。それは先刻のディナーのように『ゆっくりと味わう』という形容がぴったりだった。温かく、柔らかく、心地よいその感触に夏輝は心も身体もとろけそうだった。

 キスに夢中になっている間に、いつの間にか夏輝のブラジャーのホックは外されていた。そのままケンジは、ピンク色に上気した夏輝のバストを手のひらで包み、ゆっくりとさすった。

「あ、ああ……」夏輝は小さな喘ぎ声を発し始めた。そしてケンジがその唇で乳首を捉え、とろけるようなさっきのキスと同じように舌先でやさしく愛撫し始めると、夏輝の身体全体はどんどん熱くなっていった。

 

「甘く熱い夜を君と過ごしたい」ケンジは柔らかく微笑んだ。

 そしてケンジは水色のショーツ一枚になった夏輝に優しく身体を重ね、再びキスをしながら、今度は右手をそっとその儚げで薄い布の中に滑り込ませた。

「んっ……」夏輝は小さく呻いて仰け反った。

 彼の指はためらうことなく夏輝の谷間に滑り込み、中でゆっくりと動き始めた。決して激しい動きではなかったが、いつしか夏輝のショーツは溢れ出る泉でしっとりと濡れていた。そして彼女はケンジと一つになりたい強い衝動に駆られ、自ら腕を彼の背中に回してきつく抱きしめたのだった。

 

 もう誰にも止められなかった。夏輝は右手をケンジの下着に伸ばした。

「おやおや、夏輝ちゃん、もういいのかい?」

「お、お願い、ケンジさん、あたしに入ってきて!」

「かわいいね。もうちょっと愉しみたかったんだけどね」

 夏輝はケンジを仰向けに押し倒した。そして、乱暴にショーツをはぎ取った。

「大丈夫かい? 夏輝ちゃん、」

「ああ、夏輝って呼んで、お願い」

「わかった。んっ!」夏輝がいきなりペニスを咥え込み、舌を使って愛撫を始めた。ケンジは小さく呻いた。「ああ、いい気持ちだ、夏輝」

 夏輝は長い間その行為を続けた。ケンジのペニスは大きく、硬かったが、温かく、いつまでも咥えていたくなる程心地よい感触だった。

 

「もう十分だよ、夏輝。さあ、横におなり」ケンジは少し焦ったように夏輝の身体を抱きかかえ、ショーツを脱がせて全裸にすると、優しく仰向けに寝かせた。そしてゆっくりと自分の身体を重ね、耳元でまた囁いた。

「このままでいいの?」

「きて、ケンジさん、早く、私の中に……」

「わかった」

 

 ゆっくりとケンジが中に入ってきた。

「あ、ああああ……」夏輝は仰け反った。ケンジは彼女の口を自らの唇で塞ぎ、腰をゆっくりと動かし始めた。

「ん、んっ……」

 その動きは激しいものではなかったが、夏輝の身体は敏感に反応し、早くも痙攣を始めた。

 ケンジはゆっくりと口を離し、夏輝の目を見つめて微笑んだ。

「イ、イって! ケンジさん、私の中に、イって!」

「いいの? そのままで」

夏輝は細かく身体を震わせながら今にも泣き出しそうな顔で懇願した。「お願い、ケンジさん、あたしに下さい」

 

 ケンジは次第に大きく腰を動かし始めた。

「んっ、んっ、んんっ……」

「ケンジさん! ケンジさん! ああ、あたし、あたしっ!」

 夏輝が激しく喘ぎ始めた。ケンジも首筋に汗を光らせながら苦しそうな顔で言った。

「あ、ああ……イ、イくよ、夏輝、もうすぐ……」

「来て! 来て下さい! お願い! あああああ……」

「いっしょにイこう。夏輝。 うう……ああ!」

 

「イくっ!」二人は同時に叫んだ。

 びゅくっ! そして次の瞬間、ケンジの体内にあった熱い塊が夏輝の身体の中に弾けだした。

「あああああーっ! ケンジさんっ!」

 身体を離したケンジは、夏輝の身体を柔らかく抱きしめたまま。耳元で囁いた。

「夏輝、君の柔らかい身体は病みつきになりそうだ」

「私もです。ケンジさん」

「そろそろ『ケンジさん』は止めてくれないかな」ケンジは照れたように頭を掻いて続けた。「今は……そうだなあ……恋人同士ってことでどう?」

「素敵。でも何とお呼びしたら……」

「ケンジでいいよ」

「え? でも……」

「僕の名前だ」ケンジは夏輝を横向きにして背後から背中に唇を這わせた。

「あ……」

「ケンジって呼んでくれないか」ケンジは手を夏輝の身体に回し、その大きな手で彼女の豊かなバストを包み込んだ。

「あ……ケ、ケンジ……」

「そう。いい子だ」

 

 ケンジは夏輝を抱きかかえて四つん這いにさせた。「もう一度君の中に入ってもいい?」

 夏輝は無言でうなずいた。

 彼女の腰に手を添えて、ケンジはゆっくりとペニスを夏輝の身体に入り込ませた。「あ、あああ……、ケンジ……」

「僕を夢中にさせた君に、もう一度ご褒美をあげよう」ケンジは腰を前後に動かし始めた。

 

 二人の結合部分から、たった今たっぷりと中に放出されたケンジの液と夏輝自身の雫が混じり合って溢れ出し、夏輝の太股を伝って幾筋も流れ落ちた。

 

「ああ……、も、もうイきそう、ケ、ケンジ……」

「一緒にイこう。合図するんだよ。ん、んんっ……」

 バックスタイルでケンジを受け入れた夏輝も身体を大きく揺らしながら叫んだ。「奥に、もっと奥に入れて!」

「な、夏輝!」ケンジの動きが大きくなってきた。

「あ、ああああ! ケンジ、イ、イくっ! ああ!」

「な、夏輝、夏輝っ!」

 

 ケンジが夏輝の腰を抱え込んで一段と大きく身体を揺らした。

「で、出るっ! 出るっ!」

 二人の身体が同じようにびくん、と跳ね上がった。「ぐうううっ!」ケンジは夏輝の腰を両手でしっかりと掴んだまま、迸る熱いエキスを夏輝に再び注ぎ込んだ。

 

 広いバスタブの中で、ケンジは夏輝を膝に乗せていた。

「素敵だったよ、夏輝ちゃん」

 夏輝はケンジに背中から抱かれたまま、首だけ振り向かせた。「まだ夏輝って呼んでて、お願い、ケンジ」

 ケンジは苦笑した。「あ、ごめんごめん」

 ケンジの大きな手のひらが夏輝のピンク色に上気した乳房を包み込んだ。

「ごめんね、夏輝。無理矢理こんなところまで連れ込んじゃって」

 夏輝は恥じらいながら言った。「あたし、ケンジのキスで引き返せなくなっちゃった……」

「そう?」

 夏輝はケンジの膝から降りて、彼と向かい合った。

「貴男のキスは、たぶん世界最高」

 あはは、と屈託なく笑って、ケンジは夏輝の頬を両手でそっと包んだ。「大げさだよ」

「ほんとです」夏輝は少し反抗的に言った。「そのキスで、いろんな女の人を虜にしちゃったんでしょ?」

「僕がそんな遊び人に見える?」ケンジは悪戯っぽく笑った。

「遊び人でしょ?」夏輝も負けずにウィンクをした。

「確かにね。現に今もこうして人妻を抱いてる」

 夏輝はケンジの首に腕を回して、その唇を求めた。ケンジもすぐにそれに応え、柔らかく、しかし情熱的なキスをした。

 口を離した夏輝が、ケンジと額同士をくっつけたまま上目遣いで言った。「あたしが人妻だってこと、今だけは忘れてて。お願い、ケンジ」

「わかった」

「耳が真っ赤。ケンジ、のぼせた?」

「い、いや……」ケンジは言葉を濁して照れたように頭を掻いた。

「上がりましょうか」

「そうだね」

 ケンジは微笑み、再び夏輝の唇を愛した。

 

 二人は寝室のベッドに全裸のまま並んで横になっていた。

「気持ちいい……」夏輝は自分の頬に手を当てて言った。

 ケンジは夏輝の髪を撫でながら言った。「いっぱい汗かいてたからね。もう休もうか。疲れただろう?」

 夏輝は恥じらいながら言った。「……ケンジ、あと一回……だめ?」

 ケンジは破顔一笑して言った。「自分に素直な素敵な子だね、夏輝」

「ケンジも、」夏輝はケンジの股間にそっと手を伸ばした。「さっきからずっと逞しいまま……」

 ケンジは少し焦ったように言った。「そ、そうかな……」

「お風呂でもずっと硬くて、あたしの脚に当たってた」

 ケンジはばつが悪そうに夏輝から目をそらした。

「お風呂で繋がってもよかったのに」

「夏輝」ケンジは再び夏輝の目を見た。「実は僕もこのままじゃ収まりそうにないんだ」

「嬉しい」

「さあ、おいで」ケンジはそう言って仰向けになり、夏輝を誘った。

 

 夏輝は少しだけ恥じらったように顔を赤らめて、ケンジの身体に体重をかけ覆い被さった。

「ああ、夏輝、温かい、君の身体、柔らかくてとっても温かいよ」

 二人は唇を重ね合った。

「ん、んっ……」

「むぐ……うん、んん……」

 長い時間をかけてお互いの唇を味わい合っているうちに、ケンジのペニスはますます大きく、硬くなり、びくんびくんと脈打ち始めた。その度に上になった夏輝の太股や秘部にそれがあたって、夏輝の身体もまたどんどん熱くなっていった。彼女の谷間からも、大量の液が流れ出し、ケンジの腹をぬるぬるにして、それは二人の快感を否応なく高めていくのだった。

 夏輝はケンジのペニスを手で握り、自分の秘部に導いた。それは、溢れ出る熱い液によって、ぬるりとあっけなく奥深くまで入り込んだ。

「んっ……、夏輝、なかなか積極的だね」

 そうしてケンジのペニスは三たび夏輝の身体奥深くに迎え入れられた。

 

「ケンジ、あたしもう熱い、とっても熱くなってる……」

「上で動くんだ、夏輝。君の好きなように……あ、あああ……」

 二人は腰を上下に激しく揺すった。

「欲しい、あなたの……あああああ!」

「夏輝、君の中は、とても……心地いい……ううううっ!」

「ああ! ケンジ! もうどうにかなりそう!」

「うううっ! 夏輝! ぼ、僕もまた……くっ!」

「は、弾けていい? もう登り詰めていい? ああ、あああっ! ケ、ケンジ、ケンジっ!」

「イくんだ、夏輝、僕も、んんんっ!」

 

 ケンジは身体を大きく仰け反らせた。「ぐ……うううっ!」

 びくんっ! 夏輝の身体が大きく跳ね上がり、次の瞬間、ケンジの身体に倒れ込んだ。

「うあああっ! イくっ! 出、出る、出るっ! 夏輝っ!」

「イってっ!」

 

 二人の身体が大きく跳ね上がり、ケンジの中から噴き上がった熱いものが、勢いよく夏輝の体内に何度も何度も放出された。

 

 夏輝は今までこれほどまでに絶頂感から息を落ち着ける時間がかかったことはなかった。心拍数は上がったまま、そして何より身体の異常なほどの熱さがいつまでも冷めていかなかった。彼女は全身を紅潮させたままケンジの胸に顔を埋めていた。

 

「夏輝……」ケンジは囁くようにそう言って優しく彼女の髪を撫でた。

 夏輝の双眸から涙が溢れ始めた。彼女は震える声で小さく呟いた。「お父ちゃん……」そしてケンジの背中に回した腕に力を込めた。

 

 しばらくしてケンジの身体を抱いたまま顔を上げ、その大きく温かい男性の顔に目を向けた夏輝は、数回瞬きをしてぎこちなく微笑んだ。

「夏輝」

 ケンジも微笑みを返しながらもう一度優しい声でそう言った次の瞬間、夏輝はいきなりケンジの唇に自分のそれを宛がい、激しく吸い始めた。

 んんっ……。ケンジは小さく呻いた。

 


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