《greenroom talk~楽屋話》
そこは修平の家のリビングだった。
天道修平は健太郎の親友。中学に入学して大げんかをした後、すぐに意気投合して以来、ずっと大切な友人だった。彼は健太郎の双子の妹真雪とも中学時代から自ずとずっと親しくつき合っていた。
修平はやはり高校の時の同級生、日向夏輝と結婚して、今、この一戸建ての借家に彼女の母陽子と共に暮らしている。
健太郎も高校時代の同級生、月影春菜と、龍もいとこの真雪とほぼ同じ時に結婚して、それぞれ仲むつまじく暮らしている。
→健太郎と修平が大げんかした中学時代の話 外伝第2集第8話「精通タイム」
「ごめんね、しゅうちゃん、ソファ汚しちゃって」
真雪が申し訳なさそうに言って、濡れタオルで飛び散ったり垂れ落ちたりしていた白い液をせかせかと拭き取った。
「そんなこと、構わねえけどよ」
修平はストーブにケトルをかけ直しながら言った。
「おまえ、龍以外の男に中出しされるの、断固拒否してたじゃねえか。なんでケンタにあっさり中に出させんだよ」
修平は親友健太郎のことを『ケンタ』と呼んでいた。
今まで真雪と熱く繋がっていたその健太郎は、涼しい顔でストーブ横のカーペットに座ってコーヒーを飲んでいた。
「なに爽やかで充実した顔してコーヒー飲んでんだ、ケンタ!」
「えへへ……しゅうちゃん、実はね」
真雪がおかしそうにそう言いかけた時、リビングのドアが開いて、外にいた龍が部屋に入ってきた。
「龍っ!」修平は入ってきた龍を鋭く睨み付けた。「おまえ、何で二人を引き離さなかったんだ? 真雪、ケンタに中出しされちまったんだぞ? しかも三回も、めちゃめちゃたっぷり注ぎ込まれてたじゃねえかっ! 兄妹だったら許せんのかよ」
「まあまあ、しゅうちゃん。落ち着いて」真雪がまた言った。
「軽すぎだろ、真雪っ! こんなことなら俺んち提供すんじゃなかった……」
修平はふてくされたように言い、カーペットにどすんとあぐらを掻いてテーブルのコーヒーカップを手に取った。
部屋に入ってきた龍が修平を見下ろして言った。「修平、俺にもコーヒー」
「へ?」修平は思わず龍を見上げた。「何つった? 龍」
「だから、俺にもコーヒー淹れてくれないかな」
「龍、……おまえ誰だ?」
「気づけよ、いいかげん」立っていた龍――健太郎は笑いながらぽんぽんと修平の肩をたたいた。
「ま、まさか、おまえ……」
修平は慌てて立ち上がり、ストーブ横でコーヒーを飲み干したばかりの健太郎――龍を見下ろした。
「お、おまえら……」
「しゅうちゃん、だまされるの、二度目だね」真雪が愉快そうに言った。「あたしが淹れるよ、コーヒー。ケン兄、待ってて」
「済まないな、マユ」外から入ってきた本物の健太郎は上着を脱ぎながらソファに腰を下ろした。「ああ寒かった」
「なんでえなんでえ、くそおもしろくもねえ!」
修平はいじけたように言って、カップをテーブルにのせ、カーペットに仰向けにひっくり返った。
コーヒーの入ったカップを健太郎に渡した真雪は、そのまま彼の隣に座った。
健太郎はあきれ顔で言った。
「それにしても、おまえたち、相変わらず激しいな」
「なんで?」
「俺に化けてた龍、マユから一度も抜くことなく、ポジション変えて三回もイってたじゃないか。いつもああなのか?」
床に座っていた龍が顔を上げた。「今日はかなり燃えたね。シチュエーションがなかなか熱い感じだったしね」
真雪がカップを持ち上げて言った。「確かに、さすがに三回も続けてイってくれることは滅多になかったね、龍」
「うん。実際に俺と真雪がエッチするとなっても、繋がったまま三回は難しいね」
床に大の字になったまま修平が言った。「だよな。よくよく考えたらあの流れるようなポジション展開はお互いをよく知った者同士じゃねえとできねえな。確かに。こいつら慣れてんな、やっぱ兄妹だからかねー、なんて思ってた」
「ねえねえ、ケン兄」
「ん? どうした、マユ」
「あたしが龍と結婚する前、実際あんな気持ちになってた?」
「全然」健太郎は即答した。
「何それ」真雪はつまらなそうに横目で健太郎を見た。「愛する妹が嫁ぐ、ってことに切なくなったりしなかったの?」
「だって、相手はいとこの龍だろ? それまでと何も変わらないじゃないか」
「そりゃそうだけど」
「おまえも同時に結婚したじゃねえか、春菜と」寝転がった修平が顔だけ健太郎に向けた。「立場は同じだろ?」
「あたしはちょっとだけ、きゅんとなったよ」真雪が言った。
「何に?」
「ケン兄がお婿にいっちゃうことだよ」
「なんだよ『お婿』って」
「結婚したら、ケン兄の一番近くにいるのは春菜になる、ってことでしょ? 今まで妹のあたしだったから、そういう意味で少し寂しい気がしたよ」
「そ、そうなのか?」健太郎が意外そうな顔をした。
「もちろん春菜に嫉妬してたってわけじゃないけどね」
「真雪はその時ケン兄に抱かれたい、なんて思わなかったの?」龍が訊いた。
「抱かれたい、っていうか、エッチしたいとは思わなかったけど、もし結婚式の朝にケン兄にハグされてキスされてたら、あたし泣いてたかも」
「へえ!」
健太郎が一番過剰に反応した。
「しっかし、」修平が身体を起こして言った。「おまえらほんとによく似てんな」そして健太郎と龍を見比べた。
「身長もサイズもほぼ同じ。ヘアスタイルもだいたいいっしょだけど、髪の質がちょっと違うんだよ」龍がそう言って前髪を捌(さば)いて見せた。
「俺の方がちょっと柔らかめなんだよ」健太郎がコーヒーカップを持ったまま言った。
「へえ」
「二人ともトリートメントとかブローでちょっと手を入れたんだよ、しゅうちゃん」
「声も元々すんげー似てるし。俺、全然見分けつかなかった。最後まで信じ込んでた」修平は肩をすくめた。
「思惑通り、ってとこだね」
「だけど、龍の演技は迫真だったな。見てる俺も、なんだかめちゃめちゃ切ない気持ちになってたかんな」
「そう?」
「泣きながら真雪を抱くとこなんざ、やってることは許せねえことなのに、何だか納得できる、そういうことなら許せる、みたいな気になってた」
「俺もさ」龍が言った。「ケン兄がほんとにあの立場だったら、きっと切なくて、妹である真雪を求めずにはいられなくなるよね、って思って、感情移入しちゃってたよ」
「だから実際にはそんなことなかったって」健太郎が少し照れたように言った。
「あたしがケン兄の知らない人と結婚することになって、遠くに行っちゃっても?」
カップを持つ健太郎の手が止まった。
「それは……」
健太郎は難しい顔をして黙り込んだ。
修平が穏やかな顔を健太郎に向けた。
「もしそうだったらケンタ、たぶんこの芝居みたいな気持ちになってたんじゃねえか?」
「……そうかも」
「娘を嫁に出す父親の気持ちに似てるだろうけどよ、歳が近い分なんかこう、恋愛感情が噴き出す度合いが強いんじゃねえかな……」
「感極まってキスしたり、もしかしたらエッチを迫ったりするかも、ってこと?」真雪が訊いた。
「どうなんだ? ケンタ」
「ど、どうって……」
「ここにいる四人の中でおまえだけだろ? 妹がいるの」
「ケン兄って、」龍が言った。「真雪に恋愛感情を抱いてたりした?」
「今思えば、けっこうそんな気持ちもあったかも知れないな」
「ほんとに?」真雪が意外そうに言って、コーヒーをすすった。
「まあ、若い頃はマユの大きな胸とか身体つきに欲情することも少々あったが」
ぶーっ! 真雪はコーヒーを噴いた。
龍がおかしそうに言った。「初耳!」
「やっぱりな」修平が勝ち誇ったようにふんぞり返った。「言っただろ? おまえ、妹の胸に興奮したりしねえのか? って。中学ん時だったっけか。あん時はおまえ、必死で否定してたが、やっぱムラムラしてたんじゃねえか」
「だ、だから『少々』だって」
「思春期の男子だからね。まあ、当然と言えば当然かも」龍は笑いながらテーブルのチョコレートに手を伸ばした。
「一人エッチのおかずにしたりしてたのか? 真雪の下着とか写真とかで」
「そ、それはない!」健太郎は慌ててかぶりを振った。
「ほんとに?」真雪は隣に座った健太郎を横目で見た。
「な、なんだよ、マユ」
「ママが言ってたけど、ケン兄の部屋にあたしのブラやショーツがあったこと、何度かあったらしいじゃん」
「ばっ、ばかな!」健太郎は慌てた。「ご、誤解するなよ、た、確かに俺の洗濯物におまえの下着が紛れてたことはあったけど、わざとじゃない!」
「そうかなー」真雪はますます懐疑的な目で健太郎を見た。「それに、高校に入学したての頃は、あたしと話す時いつも目線がこのあたりだったでしょ」
真雪は自分の胸を指さした。
「なんだ、ケンタも普通の思春期男子だったってことじゃねえか」修平は笑った。
「妄想してたの? ケン兄」龍がおもしろそうに言った。
「絶対ヌいてただろ、おまえ真雪の裸、想像して」
健太郎は真っ赤になって縮こまり、小さな声で言った。「と、時々は…… 」
横の真雪はにこにこ微笑みながらカップを口に運んだ。
「普通だよ、ケン兄」龍も笑いながらコーヒーをすすった。
「じゃあよ、こないだ真雪を実際に抱いた時は、なかなかだったんじゃねえか?」
「なんだよ『なかなか』って」
「想像通りだったか?」
「想像……以上だったな」
「うふふ……ケン兄ったら」
真雪が健太郎の肩を軽くたたいた。
「おっぱいに執拗に吸い付いてたらしいよ」龍がおかしそうに言った。
「そ、そんなに執拗に、す、吸い付いてないし!」
「執拗だった」真雪が言った。
「無理もねえよ」修平だった。「俺も真雪のおっぱい見たとたん息が止まったかんな」
「そうだったね、修平さん」
「もうパイズリ なんて、天国にいるみたいだったぜ」
「わかる。それ」健太郎がぼそっと言った。
「ケンタもやってもらったのか?」
「……ああ」
「すっごい豪快に発射してね、あたしの首とか顔とかにいっぱいかけてくれた んだよ、ケン兄」
健太郎はまた顔を赤くして縮こまった。「だ、だって、めちゃめちゃ気持ちよかったんだ……」
「あたしと繋がって一度イった後だったのに、すごい量だったよね、ケン兄」
「え? 繋がって、って、まさか真雪の中に出したわけじゃねえんだろうな」
「大丈夫。ケン兄ちゃんとゴムつけてくれた」
「ま、そうでなきゃ龍に半殺しにされるわな」
「そのゴム中にいっぱい出してたのに、おっぱいに挟まれてまたびっくりするほどたくさんね」
真雪はウィンクをした。
「ケンタも龍も非常識に大量射精しやがるからな、わははは!」
「何だよ『非常識』って」健太郎が修平を睨んだ。
「おまえ、さっきはパンツの中に射精したんだろ? 気持ち悪くねえのか?」
「とっくに着替えたよ」
「そう言やズボンも替えてんな」
龍がしみじみと言った。「下着の中に射精したりしたら、溢れちゃって大変なことになるんだ。ケン兄もでしょ?」
「ま、まあな」
「穿いたまま出しちまったこと、あるのか? おまえら」
「俺、初めての精通の時、そうだった。寝てる時に出してた」龍が言った。
「ハワイ旅行の時だよね」真雪が懐かしそうに言った。「あたしとエッチする夢をみて出しちゃったんだよ、龍ったら」
「はあ? 龍、おまえ、初めての射精ん時、すでに真雪の中に出す妄想してたのかよ」
「えへへ……」龍は頭を掻いた。
「ケンタは?」
「お、俺か?」健太郎は人差し指で自分の鼻を指した。
「そうだよ」
「あのときはおまえも一緒だっただろ?」健太郎は反抗的な目をして言った。
「いつ」
「高校二年の終わりだったか、うちの学校で陸上の大会があった時だよ」
「陸上? おお! 思い出した。あの時な、そうそう、おまえ、突然トイレに駆け込んだことがあったな」
真雪が訊いた。「何、それ。二人でなにしてたの?」
「校舎の窓から陸上部のユニフォーム姿の夏輝を視姦してたんだ、俺たち」
「やだ! 二人でそんなことしてたわけ? 学校で」
「もう興奮しちまってよ、俺もケンタも」
「まったくいやらしい男子高校生なんだから」
「で、おまえトイレでヌいたんじゃなかったのか?」
「ま、間に合わなかった……」
「あはははは!」龍が大笑いした。「ケン兄もなかなかだね。でもわかる。夏輝さんのあの姿は確かに目の毒だね」
「よし! じゃあケンタ、今度おまえと夏輝が繋がる話を書いてもらうか、神父尊さんに」
「えっ?」健太郎は固まった。
「いいね、」真雪だった。「高校時代を思い出してさ、ケン兄、念願の夏輝とエッチする話をリクエストしちゃおうか」
「おもしろそう」龍も言った。
健太郎がおどおどしながら言った。「そ、そ、そんな……、いいのか? 修平、俺が夏輝と……」
「見てみてえな。ちょっとどきどきすんなー」
健太郎はまた緊張したように少し手を震わせながらカップを口に運んだ。
――the End
2015,10,11 Simpson
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