第7話 赤い薔薇の秘密 page 1 / page 2 / page 3 / page 4


 ――次の水曜日。

 

 その日は朝からどんよりと曇っていた。

「ごめんね、天道くん。私のために仕事休んでくれたの?」

「ああ。っていうか、俺も確かめたいことがあってな」

 春菜は『センセーション』で修平と再び向き合っていた。

「確かめたいこと?」

 春菜のその問いに修平は答えなかった。彼は無言のままいつになく険しい顔をしてテーブルのコーヒーカップを見つめていた。

 

「天道くん、なんでネクタイなんかしてるの?」

「今日は、」一度言葉を切った修平は少しばつが悪そうに前に座った春菜に目を向けた。「俺、学校に出勤したことになってんだ」

「え? なんで、そんな……」

「ちょっとな……」修平はカップを口に運んだ。

「夏輝に内緒で?」

「ああ……」

「どうして?」

 修平はまた難しい顔をしてうつむいた。

 

 少しの沈黙の後、修平は決心したように顔を上げた。

「春菜、今日、ケンタの行き先を突き止めようぜ」

「う、うん。ありがとう。でも天道くんも何だか、表情が冴えないようだけど……」

 修平は春菜の目を見つめた。

「中学時代からの親友でもあるケンタが、妻であるおまえを差し置いて、他の女に走ることが、俺には許せねえんだ」

「そ、そうだよね……。ごめんね、天道くん」

 

「それに……」

 

「え? まだ何かあるの?」

「い、いや……」修平は言葉を濁してコーヒーカップを口に持っていった。

 中身を飲み干した修平は席を立った。「俺、着替えてくる。ここで待っててくれ、春菜」

 春菜はこくんとうなずいた。

 

 

 その日の午後、春菜が昼食の片付けをしている時、背中に健太郎の声が届いた。

「ちょっと出かけてくるよ、ルナ」

「うん。気をつけてね」春菜はどこへ行くとも何をしに行くとも訊かずに、食器を洗う手を休めたまま、彼の背中を見送った。

 

 健太郎が通りに出たところで、春菜はそっと店を出た。それを見て建物の陰に潜んでいた修平が姿を現した。彼はワイシャツから地味なTシャツに着替えていた。

「よし。つけよう、春菜」

「うん」

 

 春菜と修平は、先を歩く健太郎に気づかれないように跡をつけた。

 

 健太郎は繁華街の花屋に立ち寄り、薔薇の花束を買った。それは全て血のように赤い花びらをした薔薇だった。

「……」修平は自販機の陰に隠れたまま、少し震えながら厳しい目で健太郎の背中を睨みつけていた。

 

 

 たどり着いたのは、修平の家の前だった。

「え?」春菜が小さく呟いた。

「やっぱりか……」修平も独り言を言った。

「ど、どういうことなの?」鋭い眼を修平に向けた春菜が言った。「天道くんの家……、いったい……」

「春菜、俺について来い。くれぐれも気づかれないようにな」

「……」

 

 修平と春菜は家の裏手に回り、裏口をそっと開けて中に入った。そして壁の陰から中の様子をうかがった。

 

「ケ、ケンちゃん」極端に短いショートパンツにTシャツ姿の夏輝は、やってきた健太郎にほほえみかけた。

「な、夏輝」健太郎は不自然な程赤い顔をして、手に持っていた薔薇の花束を差し出した。

「いつもありがとう。嬉しい」

「夏輝っ!」健太郎は不意に夏輝を抱きしめた。夏輝が持っていた薔薇の花束が床に落ちた。

 

 健太郎はその口で夏輝の口を塞ぎ、左手で彼女の胸を荒々しくさすった。

「んんん……」夏輝は呻いた。

 

 健太郎が口を離すと、夏輝は息を弾ませながら言った。「いつものように、いっしょにシャワー浴びようよ」

「そ、そうだね……」健太郎は赤くなったまま夏輝に手を引かれてバスルームに入っていった。

 

 

「どうやら、」修平が声を殺して春菜に言った。「ケンタの浮気相手ってのは、夏輝らしいな」

「そ、そんな……」春菜は血の気の引いた顔をこわばらせた。

「水曜日、毎週のように夏輝も仕事休んでたのか……」

 修平は小さく歯ぎしりをした。

「二階に上がろう、春菜。浮気現場を押さえるんだ」

「え? 二階に?」

「二人が俺たちの寝室でコトに及ぶことはねえよ。おそらくリビング」

「リビング?」

「そうだ。さすがに俺たちの寝室でそんなことやったら足が付く。俺にバレないようにするのなら、現場は十中八九リビングだ」

 修平はそう言って春菜と一緒に足音をたてないように気をつけながら階段を上り、二階の寝室の前にやって来た。そして吹き抜けになったリビングが見渡せる位置に移動して身を潜めた。「ここからならよく見えるだろ? たぶん気づかれねえよ。ここなら」

「そ、そう……」春菜も泣きそうな顔で修平の隣に屈み込んだ。

 

 

 しばらくしてバスルームから健太郎と夏輝が出てきた。二人とも一枚のショーツを身に着けただけの姿だった。修平の思惑通り、二人はリビングのソファの前で向かい合い、我慢できないように抱き合い、激しく唇を重ね合った。

 

「くっ!」見ていた修平は唇を噛んだ。

 

 健太郎は夏輝の背後から、彼女の上気した身体を抱きしめ、左手でその乳房を鷲づかみにした。

「あ、あああん、ケ、ケンちゃん……」夏輝が喘ぎ始めた。

 夏輝は首を後ろに向けて健太郎の唇を求めた。彼はすぐさまそれに応えて、また熱く激しく彼女とキスをした。

 夏輝は向かい合い健太郎の身体に腕を回したまま、その首筋に唇を這わせ始めた。そして彼の右耳を軽く噛んだ後、その下の部分に吸い付いた。

「な、夏輝……」健太郎は甘い声を上げた。

 そして二人はソファに倒れ込んだ。

 階下で絡み合う夏輝と健太郎の姿を凝視しながら、唇を噛みしめたまま身体を細かく震わせている修平に、春菜は思わず身を寄せ、その腕をぎゅっと掴んだ。

 

 

 待ちきれないようにお互いの下着を脱がせ合った夏輝と健太郎は固く抱き合って、脚を絡み合わせた。夏輝の長く白い脚が健太郎の身体に回された。

「な、夏輝、」

「ケンちゃん……」

 二人は間近でその目を見つめ合った。

「お、俺、入れたい、夏輝に入りたい」

「あたし、その前にあなたのものを味わいたいの。いい?」

「わ、わかった」

 

 健太郎はソファに座った。夏輝はその前に跪くと、大きくなって脈動している健太郎のペニスをそっと両手で包みこんだ。

「あ、な、夏輝……」

 夏輝は大きく口を開いて、すでに先端を濡らしているそれを一気に咥え込んだ。

「あ、ああっ! 夏輝っ!」健太郎は仰け反った。「だ、だめだ! お、俺っ!」

 

 まるで初めての体験に戸惑う思春期の少年のように健太郎は慌てふためいて、夏輝の頭を両手で押さえた。夏輝は真っ赤な顔をして、口を前後に動かした。

「夏輝っ! 夏輝っ!」

 

 

 修平の息が荒くなってきた。「な、夏輝……ケンタにあんなこと……」

 

 

「夏輝、お、俺……」

「我慢できない? ケンちゃん」口を離した夏輝は上目遣いで健太郎を見た。

「も、もう入れたい、入れたいよ」

「いいよ。きて、ケンちゃん」

 

 

 春菜の息も荒くなってきた。そして修平の腕を掴んだ手にさらに力を込めた。

 

 

 健太郎は夏輝を仰向けにして脚を抱え、大きく開かせた。夏輝は目を堅くつぶって胸を両手で押さえた。

「いくよ、夏輝……」

 夏輝はだまって大きくうなずいた。

 

 健太郎は夏輝の唾液で妖艶に濡れ光っているペニスを谷間にあてがい、また訊いた。「ほんとにいい? 夏輝、入っても……」

「う、うん。いいよ、大丈夫。きて、ケンちゃん」

「ぐっ!」健太郎は覚悟を決めたように、一気にペニスをその谷間に埋め込んだ。

「ああっ!」夏輝が叫んで大きく身体を仰け反らせた。

 

 

「ううっ!」二階でうずくまっていた修平は出し抜けに自分の股間に手を当てた。

「て、天道くん……」春菜が心配そうに彼の顔を覗き込んだ。

 

 どくん……どくどく……。修平は着衣のまま射精をしてしまった。

 


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