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ミカがケンジに顔を向けた。「もしかしてケンジ、スーパー連射モードに入ってたわけ?」
ケンジは眉尻を下げてミカの視線を受け止め、赤くなって頭を掻いた。「そうらしい……」
修平はコーヒーを飲む手を止めて怪訝な顔をした。「何すか? その『スーパー連射モード』って」
ミカが修平に顔を向け直した。「月に一度ぐらい、ケンジの体調や気分が好調な夜、何度もイけることがあるんだよ」
「何度も?」
「そ。それこそ六回ぐらいはザラ。そこ二時間ぐらいの間に、立て続けにね。今までの最高記録は11回。ケンジが29の時だったっけか」
「へえ! すごいっすね」
「しかもずっと硬さを失わないだけじゃなくて、何度もいっぱい発射するんだ」
「人間業じゃないっすね」
「そりゃあもう、その間ずっとあたしもイかされるから、くたくたになってその後は爆睡だよ」ミカは笑った。
「そんなことが月一であるんですか?」夏輝も目を丸くした。
★基礎知識→『スーパー連射モード』
「あの晩は、な、夏輝ちゃんのフェラでスイッチが入ったみたいなんだよ、連射モードの……」続けてケンジは小さな声で言った。「ご、ごめんね、夏輝ちゃん……」
「とんでもない、あたしの方こそあんなに長い時間気持ちよくしてもらっちゃって、最高に嬉しかったです」夏輝はにっこりと笑った。
ミカが言った「でも修平もいつもそんな感じなんだろ?」
「確かに復活は早いですね、修平は。一晩に一度きりってことは今まで皆無です。まあ生まれつきエロいからそんなもんでしょ」
「何が生まれつきだっ!」修平が慌てて言った。
「それにね、」夏輝が修平に顔を向けた。「ケンジさんが弾ける時って、ほんとにすごい勢いなんだよ」
「ちょ、ちょっと夏輝ちゃん、何を言い出すんだ!」ケンジは真っ赤になって腰を浮かせた。
「身体の中にその衝撃が伝わるほど。しかもずっと。何度も」
「そ、そんなにすごいのか? ケンジさんって」修平が思わずカップから口を離して言った。
「身体の奥に打ちつけられるっていうか、中を思いっきり広げられて中心を狙い撃ちされるっていうか。とにかく凄まじい衝撃と快感なんだよ。もう吹っ飛ばされそうな快感」
「へえ!」
「夏輝もそう思ったか」ミカが笑いながら言った。「あたし、いつもケンジのあの勢いでさらに高まっちゃうんだ。イくレベルが一段アップする感じだね」
「そうそう。そうですよね」夏輝は目を輝かせて修平の方を向いた。「最後の6回目でさえそうなんだから。もう大変なんだよ。いつまでも眠らせてもらえない」
もはやケンジは言葉をなくして縮こまっていた。
「それにあの半端ない量。イった後の余韻を味わってる時にどんどん漏れてくるんだよ、二人の繋がった隙間から」
「繋がってるのにか?」
「うん。もう中がいっぱいになって溢れ出しちゃってた。でもその何とも言えない温かさでまた身体が熱くなっちゃう」
「夏輝ちゃんっ!」ケンジが堪らず大声を出した。「な、生々しいこと言わないでくれっ!」
「噂以上だな、ケンジさん……」修平は心底感心したように言った。
「それにしても、ケンジ、いつもと違うこと言ってたよね」ミカがおかしそうに言った。
「い、いつもと違うこと?」ケンジはおどおどしたように顔を上げ、ミカを見た。
「そう。あたしに『君の身体は病みつきになりそうだ』なんて言ったことないでしょ?」
「しょうがないだろ、あれは修平くんが書いたとかいうシナリオ通りだ」
「ほんとに一言一句間違わずに話しかけてくれてましたね、夏輝に」
「かなり照れくさかったぞ」ケンジは赤面した。
「他にもあった?」
「『僕を夢中にさせた君に、もう一度ご褒美をあげよう』とか普通言わないだろ。それに、」
「まだあるの?」
ケンジは赤い顔で修平を軽く睨みながら言った。「『君の中は、とても……心地いい』とか……」
「確かに言ったことないね、ケンジは」ミカが言った。
「でも、本当に心地よかったけど……」ケンジは小さく言ってコーヒーを口にした。
「で、具体的にどうだったの? 夏輝の抱き心地」
「な、何だよ『具体的に』って」
「やっぱり、あたしとかマユミとかとは違ってたでしょ? 相当な歳の差でもあるわけだし」
「夏輝ちゃんの身体、とっても、何て言うか……しなやかだと思ったね」
「しなやか?」
「うん。さすが元アスリート。身体の動きが、何て言うか、しなやかなんだよ」
「そうなんすね。あんまり意識しなかったな。でも、ミカさんも水泳やってたから、同じような感じじゃないんすか?」
「ミカは骨太だから、同じしなやかでも、結構どっしりしてる、っていうか、安定感があるんだ」
「何だ、その表現」ミカが呆れたように言った。
「夏輝ちゃんは、もっと『軽い』感じだったね」
「悪かったね、重くて」またミカが言った。
「いや、体の重さとかじゃなくてさ、夏輝ちゃんは、羽のようにふわっと浮く感じがする瞬間が何度かあった」
「あ、それは俺も思います」修平が身を乗り出した。「夏輝抱いてると、なんか一緒に浮き上がる感じがするんですよね」
「だよね。うん。そんな感じ」ケンジが微笑んだ。
修平が目を輝かせて言った。「そうそう、俺、ケンジさんに直接訊きたい。真雪とのエッチがどんなだったか」
ケンジはばつが悪そうに何度か瞬きをした。「も、もう勘弁してくれよ……」
「何でも龍と真雪に頼まれたらしいっすね」
「そうなんだよ。まったく龍のやつ、真雪を気持ちよくさせて、なおかつ心の奥に残った拒絶感を取り除いてくれ、なんて無茶な難題ふっかけてきやがって」
「真雪の年上の男への拒絶感を取り除くため、でしたよね?」夏輝が言った。「真雪、二十歳の時の事件の後遺症がまだ残ってたんですね」
「でも見事に真雪を復活させたらしいじゃないっすか」修平がにこにこしながら言った。
ケンジは小さな声で言った。「そ、そうだね。結果的にね」
「でも、その時、ミカさんも龍くんと繋がったんでしょ?」今度は夏輝が色めき立って身を乗り出し、ミカに目を向けた。「どうでしたか? 息子とエッチして」
「あたしの場合はケンジそっくりの龍に抱かれて、ケンジの若い頃を思い出してさ、途中から龍を息子だって意識してなかったよ」
「おお、なるほど」修平が感心したように言った。
「真雪ちゃんの身体、夏輝ちゃんの抱き心地とは違ってた?」神父尊がケンジに顔を向けた。
ケンジは顎に手を当ててしばらく考えた。
「真雪は……そう、なんか絡みついてくるような感じ、ですかね」
「絡みつく?」修平がカップから口を離した。
「喩えるなら、夏輝ちゃんは爽やか系のヨーグルト、真雪は濃厚ミルクのプリン、って感じですか」
「なるほど。わかる気がすんな」修平が言った。「じゃあ、因みにミカさんは?」
「コーラフロートってとこかな」
「『コーラフロート』?」ミカが怪訝な顔でケンジを見た。
「甘いアイスクリームに炭酸の弾けるような刺激」
「おもしろい!」夏輝が言った。
「ほんとにおもしろいね。それぞれで」神父尊が言いながら、飲み干したケンジのカップにコーヒーを注ぎ足した。
「ありがとうございます」ケンジが言って、小さく頭を下げた。
神父尊が修平に目を向けた。「じゃあ、その刺激的で甘い味のミカさんを、今度は修平くんが抱いてあげなきゃね」
「えっ?!」夏輝の隣に座っていた修平がみるみる真っ赤になった。「な、なんでいきなりそういう話の展開になるんすか?」
「だって、ケンジ君と夏輝ちゃんとの話を書いたからには、君とミカさんとのストーリーも出さなきゃ読者が納得しないでしょ」
「いいねー、修平、楽しみだな」ミカが言いながら身を乗り出して修平の肩を乱暴にたたいた。
「そ、そっ、そんな、い、いいんすか? 俺なんかと……」
「あたしを抱きたかったんだろ? 前から」
「そ、そりゃそうですけど……」修平はもじもじしながらうつむいた。
夏輝が言った。「ミカさんは、ケンジさんにいつもいろんなポジションやテクニックで愛されてるんだ。修平もちゃんと勉強しとかないと、満足してもらえないよ」
「だ、だよな」修平が不安げに言った。「ケ、ケンジさん、今度教えてもらってもいいっすか?」
ケンジは笑いながら言った。「心配ないよ。君は君のやり方で問題ないって」
「そ、そうはいかないっすよ。積年のあこがれのミ、ミカさんを抱く以上は、俺だって真剣勝負でいかなきゃ」
「あたしが伝授してやるよ」夏輝が言った。「ケンジさんからやってもらったこと、今夜帰ったら復習するから」
「よしっ! わかった、夏輝。今夜は眠らせねえぞ」
一同は大笑いした。
「それにしても、読者の方からのリクエスト、ずいぶん多岐に亘ってますね」
「そうなんだよ。ま、でも今回のシチュエーションについては、いつかくるとは思ってたけどね。ケンジくんが次世代の女のコを抱くっていうリクエスト」
「次世代って……」
「ケンジくんと真雪ちゃんの情事『夫婦交換タイム』を描いて、かなりの読者からの反応があってね」
「へえ」
「だから調子に乗って、」神父尊もソファに座ってテーブルにあったチョコレートに手を伸ばしながら言った。「ケンジくんの次世代の女のコとの情事話はこれだけで終わらせないよ」
「終わらない?」
「そ」
「こんどは誰を抱くんです? ケンジは」ミカがわくわくしながら言った。
「今は内緒。別の話で公開だ。現在執筆中」
「次世代っつったら、」修平が夏輝と顔を見合わせながら言った。「俺たちと同年代ってことだよな……」
「となると……残る相手はただ一人……」
「ま、まさか……」ケンジが青ざめて言った。
「そうだよ。だってケンジ君、君は『Chocolate Time』のメインキャラ。最も紳士的でセックスアピールむんむんの主人公じゃないか。君がいろんな女性と愛し合うことが、言ってみればこのシリーズの最大の特徴なんだからね」
「ええええーっ!」ケンジがうろたえて身体を硬直させた拍子に、彼が持っていたカップからコーヒーがちゃぷんとこぼれた。
――the End
2016,4,25
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